爆弾を見る予定だったのだが劇場が埋まっていたのでこちらに。
全体の印象
全体を通して、かなり説明的な作り。
会話で多くを説明しようとしていて、もう少し役者の演技や観客の理解力を信じてもいいのでは？と思った。
冗長な場面転換が多い。わかったから早く次行かない？と思うことが数回あった。
画は綺麗。アクションの動きは気持ちよいものがあったが、フレーム落ちした3Dアニメーションのように感じてしんどいシーンもあった。
手放しでオススメ！といった映画ではないが、画の綺麗さと演技が良かったというのは間違いない。
冷静な評価として、インターネットで酷評されているほど悪くないことを伝えようと書きはじめたのだが、気になった点を挙げ出したら酷評になってしまうという作品。
※以下、物語の内容に触れるので注意。
映像
話の軸に「復讐のために生き、死後の世界で他者への疑念に塗れたスカーレットが変わっていくこと」がある。
彼女に対して、復讐以外の形で生きていくことを示そうとするシーンが何度も入るのだが、すべて説明的すぎて気まずい。フラダンスを踊ってみたり民族楽器を弾いてみたりする。
百歩譲ってそのシーン自体はいいとしても、まるで一人で運営している実写YouTubeチャンネルのような固定画角でフラダンスを踊られるのがつらい。
その時のその場にいる人たちを表現しようとして、貼り付けたような笑顔の止め絵のスクロールされるのもつらい。
復讐以外の形で生きていくことを示すシーンで、スカーレットがどういう表情をしているのかが全く示されない（なんならその場にいるかすら怪しい。聖と死者たちの交流として表現されて終わり）。
数人での殺陣や、集団での戦闘シーンは映像として面白いんだが、それ以外の構図があまり面白くないし変わり映えしないのが気になった。
真上からの俯瞰とウエストレベルからの構図が多い。映画というフォーマットの都合上、左右の余白が広い日の丸構図になるのは仕方ないとしても、その余白に意味を見出せなかった。もっと寄ってくれてもいい。
テーマと設定
「この場所に来た死者たち、生きてる時と結局なんにも変わんないよね！（意訳）」と言ってて、それを明言してしまうのか、と思った。
じゃあ死後の世界を舞台にしなくてよかったじゃん。スカーレットのいる時代に聖を放り込めばよかったのでは？
聖とスカーレットの出会いも、偶然（という名の監督の意向）です、としか説明できないのがモヤモヤする。
意味深に登場する割に、竜の使い方・役割が物足りない。
ラストでクローディアス王をお話から消すためだけの舞台装置すぎる。もうちょっと何かなかったのかなと思う。
「復讐とは何か？」という問いに対して「よくないからやめましょう、許そうぜ」以上のものが提示されていない印象。
全ての映画や作品が、そのテーマについて現実に敷衍できる要素を持つべきだ…とは主張しないが、「改心する機会を与えられたのに不意にした者には罰が下ります」は今日ではあんまり響かないメッセージなんじゃないかなぁ…
演出の違和感
死んだものが行き着くのが辺獄、辺獄で再度死ぬと虚無となって消える…のであれば、虚無になったと言われていた父がなぜ出てきたのかが道理として分からない。
あそこで父を出さなくても、復讐に生きるようなことをするな、というメッセージングをスカーレットは十二分に受け取っていたのでは？
急に聖が「生きたいと言え！」って言い出すのがシュールすぎる。もしかしてギャグだったのかな。
映画の最後、現世に戻ったスカーレットの演説シーンはまるまる不要だったのではと思った。辺獄での体験をベースに「復讐に生きるのではなく友好と和平で政治していきます！」ってわざわざ喋らせなくて良かった。観てたらわかるよ。
「新しい女王スカーレット万歳！」と言い出す、あり得ないくらい従順な国民が出てくるのもなんだかなという感じ。君たちクローディアスにいじめられて困ってたんじゃないの？
総評
復讐に燃える主人公が出会いを通じて復讐以外の生き方を見つける、という至ってふつうの話。話の筋が明快な分、（このカットはなんでこの画角なんだ？なんでこの尺でこれをやってるんだ…？）といった表現の部分が気になってしまう。
作中、「生きるとはなんだ？」と直接的に観客に問うてくるのだが、没入できなさすぎた。
問われるたびに（そんなことより面白くない…面白い映画とはなんだ…？）という気持ちになった。